あの時二人を救わなかったら…

母は現在80代後半で、認知症を患っている。母は若い頃から躁とうつの状態を行ったり来たり。うつの期間は何もできなくなるので、私が小学生の頃から、食事作りを始めとする家事全般を担ってきた。

逆に、躁状態の時は、私に暴言を吐く。でも、攻撃するのは私だけで、弟には向かわない。父が助けにならないのは早々に気づいた。父が私の置かれた状況に目を向けることはない。それどころか、何か言うと怒鳴るか、手を上げるかだった。

弟は消極的で、覇気がない。まさしく両親の気質を受け継いでいた。それは大人になった今も変わらない。大学在学中から不登校気味になり、就活に失敗すると、そのまま自宅に引きこもってしまった。

あの時2人を救ったことを、心底後悔したことが何度もある。しかし、不思議な声に導かれ、彼らは生き残った。何かしらの力が働いて、私のために「生かす」ことになったのかもしれない。たしかに力と忍耐力、そして知恵がついた気がする。

遊び場だった神社の奥には、小さな祠があった。さすがに当時も祠は施錠されていた。「何があるんだろう」と、格子戸越しに覗いていた私。いつの頃からか、祠の中からこちらを見る、そんな視線を背後に感じるようになった。

離れた土地に住んでいるのに、還暦を迎えてからは、とくに強く感じる。今年の秋、半世紀ぶりにこの神社を訪ねてみよう。何かに呼ばれている気がするからだ。会いに来て――と。

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