「何を話すか」と同時に「誰が話すか」も重要
こうして見ていくと、政子の演説は、何を言えば御家人たちの琴線に触れるかをよく心得たものだったことがわかります。おそらく義時と一緒に、事前に内容を相当練り上げ、予行演習も積んだものと思われます。
蛇足ながら、この演説は亡き頼朝の妻であり、頼朝の直系が潰えた後は、実質的に四代目の将軍である、と御家人たちから見られていた政子がおこなったからこそ、効果を発揮しました。もし、義時が同じ内容の演説をおこなったとしたら、御家人たちからは、
「自分が助かりたいために、頼朝公の恩を持ち出してくるなよ」
と、反感を抱かれたかもしれません。
何度も繰り返しますが、交渉事は問題の当事者ではなく、別の人間に発言してもらったほうが、説得力が増すケースが多々あります。誰かと組んで交渉に臨む際には、「何を話すか」と同時に、「誰が話すか」を吟味することが非常に重要になります。