「漫画は子どもに害を与える悪書」

とはいえ、その頃の日本は完全なる男社会。編集部も男性ばかりでした。『ベルばら』にしても、当初は「おんな子どもに歴史ものなどウケない。理解できるはずがない」とひどい言い方で全否定されて。女性漫画家への風当たりも強く、原稿料は男性の半分。同じ媒体で、同じくらい人気があってもです。理由を尋ねると、「女は将来結婚して男に食わせてもらうんでしょう? 男はあなたたちを食わせなきゃいけないの。ギャラが倍なのは当たり前」と言われました。すごい時代ですよね。

のちに出版社を移ることになり、その際に原稿料を確認したのですが、それも良くなかったようです。ほかの漫画家さんはお金に無頓着で、そんなこと聞かないんですって(笑)。後で、編集者たちから「金銭に汚い女だ」と言われていたそうです。

ファンレターの中には意地の悪い言葉もありました。たとえば「あなたのような女がこの世にいるのが目障りでならない」というものとか。作者である私も、フランス貴族のように華やかな暮らしをしていると思われたのでしょうか。実際は『ベルばら』がヒットするまで、アルバイトで生計を立てていたんですけど。

背景には、漫画家の地位の低さもあったと思います。保護者からは、「漫画は子どもに害を与える悪書」と目の敵にされていましたから。手塚治虫先生も、自分の作品が校庭で燃やされたとおっしゃっていました。

一度、漫画を批判する方に「なぜ活字は良くて漫画はいけないのでしょう?」と尋ねたところ、「小説は場面を文字だけで表現するから空想の余地がある。漫画は絵で決まってしまうからダメだ」と言われました。「ならば映画はどうですか?」と返したら無言になっていましたね。

評価という意味では、海外のほうが作品の価値をまっすぐに認めてくれます。特にヨーロッパでは、「これは女性向きの漫画、これは男性向きの漫画」という区切りがありません。日本との文化の違いを感じます。

海外のほうが作品の価値をまっすぐに認めてくれると語る池田理代子さん(撮影:宮崎貢司)