なぜ2000年代が定年後も働く時代への転換点になったのか

それにしても、なぜ2000年代が定年後も働く時代への転換点になったのだろうか。

仕事への捉え方は人それぞれ異なり、日々の生活費を賄うことを主眼として仕事をする人もいれば、働くことが好きで経済的な事由にかかわらず働きたいという人もいる。

2000年代以降に、高齢期の就業率が高まった背景を振り返ると、そこにはやはり経済的な要因が少なからぬ影響を与えていると考えるのが自然である。

【図表1】性・年齢階層別の就業率の推移(『ほんとうの定年後』より)

過去、日本経済が右肩上がりで成長していた時代においては、誰しも若い頃より中高年のときのほうが高い給与を得ることができたし、生活水準も日々向上していた。

もちろん、自営業者の長期的な減少なども就業率低下の一因であったとみられるが、より本質的には、現役時代の賃金水準が向上して生活が豊かになれば、高齢期に無理をしてでも働く必要はなくなる。

これが戦後から日本経済がバブル経済に沸いた20世紀末頃までの大きな流れであったと考えられる。

この間も出生率の低下による人口動態の高齢化や平均寿命の延伸は着実に進行していたのだが、それを上回る速度で経済が成長していたから、高齢期の就業率が低下していたのである。

ところが、バブル経済の崩壊以降、人々の生活水準向上の歩みは遅々として進まなくなってしまう。経済成長率の鈍化や人口の高齢化によって、中高年の賃金や定年後の退職金は減少し、政府の厳しい財政状況から厚生年金の支給開始年齢引き上げなどによる公的年金の給付水準の引き下げも進んだ。

こうしたなか、寿命の延伸によって増加する老後生活費の原資を高齢期の就労なしに獲得することは難しくなってきている。昨今の経済的な事情が、働き続けることを選択する人が増加していることの主因になっているとみられる。