3匹の犬が兵士のまわりに
戦闘の激しい地域では、住民が過酷な状況に置かれていた。南部の都市ミコライウには、ロシア軍が近郊まで迫っていた。8月上旬、私はウクライナ軍が死守する最前線地帯に入った。防弾ベストとヘルメットに身を包み、軍部隊の車両に乗り込む。
砂ぼこりをあげて走る戦車を追い越し、私たちの車は荒れ地を進んだ。軍が拠点にしている村に着く。数十軒の家が立ち並ぶ小さな農村は、ロシア軍の陣地からわずか4キロの地点にあった。
「ここで踏ん張らなければ、故郷が奪われてしまう」
そう話すのは兵士、セルゲイさん(53歳)だ。一緒に村を歩いた。
「1週間前に砲弾が直撃した」という家は、屋根や壁が崩れ、家具は燃え落ちている。その脇に横たわっていたのは、死んだ家畜の牛だった。
誰もいなくなった家に入る。居間には聖書、台所には紅茶のポットと食べかけのパン。まるでさっきまで人がいたかのような生活の痕跡があった。玄関口には松葉杖が立てかけてある。足の不自由な人がいたのだろうか。住人は、どんな思いで家をあとにしたのだろう。それを思うと胸が痛んだ。
突然、ドーンと重く鈍い音が響いた。
「砲撃だ!」
急いで退避壕に駆け込む。地下の納屋を補強して作った退避壕だ。兵士が寝泊まりする場所でもある。ほどなくして、さらに大きな音が轟いた。
「大丈夫、これは味方の反撃さ」
ロシア軍が砲弾を撃ち込んでくると、その地点に向けて、後方に控えるウクライナ軍の砲兵部隊が撃ち返すのだ。
セルゲイさんのまわりには、犬が3匹いた。高齢者や負傷した住民が脱出する際、連れて行けなかったため、兵士たちが世話をしているという。前線には、こうした犬が結構いて、ドッグフードを送る民間団体もある。この日も大きな2袋の餌が届けられた。
ひどく痩せた薄茶の小さな犬がいた。ずっと私の後ろをトコトコとついてくる姿が、けなげでならなかった。砲撃で崩れ落ちた家の前に立ち止まると、その犬が悲しそうな目で私をじっと見つめた。
「なんで戦争なんかするんだよ、人間のばかやろう」
そんな声が聞こえてきそうだった。