悲観的になる必要はない

脳卒中を発症して障害が残ると、患者さんは自分の置かれた状況を正確に把握できず、あるいは状況を受け入れられず、あまり現実的でない希望を持つ場合があります。当初、医師やリハビリスタッフの方たちは、僕にもその可能性があると懸念していたそうです。

そうでなくても僕の負った障害の重さからすると、復職するまでのハードルは非常に高いと考えられていました。

目指す目標が高いので、リハビリも一般的な人よりも頑張らなくてはなりません。果たして病気で弱った心身で、それができるのかどうか。

復職を目標に、リハビリに励む出口さん(写真提供:(C)講談社)

しかし、周囲の人たちの心配とは裏腹に、僕は楽観的でした。言葉の問題や身体の不自由さは、いずれきっとよくなるだろうと。

数字・ファクト・ロジックで考えれば、悲観的になる必要などない。そう考えていたのです。

「人生とは何か」といった自問自答をすることも、落ち込んでふさぎ込むこともありませんでした。あくまで復職に向けてリハビリに一所懸命取り組み、復活した姿を皆さんにお見せしたいと思っていました。

何が起こるか予測できない世の中で、どんな事態に直面するかは、『種の起源』で進化論を確立したダーウィンがいっているように運次第であり、人間にできるのは適応だけです。

人間は川の流れに身を任せてたゆたうことしかできない。

ダーウィニストの僕は、以前からずっとそう考えてきました。川の流れに身を任せているうちに、僕はネット生命保険会社の創業を経てAPUの学長に就任し、日々の仕事と生活を送るなかで脳出血を発症し、身体と言葉の障害が残りました。