稀代の事業家「外食王」江頭匡一

外食産業の発展に貢献した人は大勢います。そのなかで、日本の外食産業の発展に最も貢献した人を誰か一人だけ挙げるとするなら、江頭さんではないかと私は思います。

江頭さんは、それまで個人経営があたり前だった飲食業の《産業化》にいち早く取り組みました。セントラルキッチンを日本で最初に導入したのは江頭さんですし、ファミリーレストランの生みの親も江頭さんです。

さらには、いまでは外食業界の常識となっているQSC(クオリティ、サービス、クレンリネス)という考え方を取り入れ、従業員の教育をシステム化し、どの店でも同じサービスを提供できるようにしたのも江頭さんが最初でした。

『「おいしい」を経済に変えた男たち』(著:加藤一隆/TAC出版)

このように、日本の外食産業の発展は江頭さん抜きには考えられません。と言っても、江頭さんはイノベーターというよりは事業家でした。

セントラルキッチンもファミリーレストランもQSCも、江頭さんのアイデアではありません。アメリカで生まれた半導体(トランジスタ)でラジオを量産したソニーなど、家電メーカーや自動車がそうだったように、いずれもアメリカに学び、いち早く導入して日本型に発展させたのが江頭さんでした。

その意味で、私は江頭さんを希代の事業家、「外食王」だったと思っています。

江頭さんの歩みを振り返ることは、そのまま日本の外食産業の歴史をたどることでもあります。江頭さんの歩みを振り返りつつ、彼の仕事がその後の外食産業にどのような影響を与えていったのか、見ていきたいと思います。