そんな私の微妙な表情を察して、「おじさんね、足がないけど、これから車を運転して帰るんだよ」とおっしゃるのです。私は驚きのあまりどう答えていいのかわからず、絶句しました。

「失ったこと、できないことを数えるより、できることを数えていったほうがいい。あんたもこれからは、絶対できることに目を向けてごらん。実際、おじさんも片足がなくても運転をしているんだから」と。

思わず涙があふれました。ほんの数分の出来事でしたが、もし、病気になっていなかったら、そこまでの話を聞くことはできなかったなって。

清水 勇気をいただける話ですね。

 はい、そうなんです。私もその話をおじさんから聞いた直後、「ああ、私も頑張れば、また歌えるかもしれない」と明るい気持ちになりました。

もう一人の方は、最近のことです。旅行で、羽田空港へ向かおうと主人と二人でタクシーに乗りました。荷物をトランクに入れてもらうとき、私は運転手さんの片腕がないことに気づきました。でも、主人は気づいていませんでした。

後部座席に座ると、主人が「運転手さん、ナビを入れてください」と言ったんです。運転手さんは「ちょっと待ってくださいね」と。私は思わず主人の腕をトントンと突きました。運転手さんが片手でナビを入れるのは無理だから、どこかに寄ってもらったほうがいいと思い、そのことに主人に気づいてほしかったからです。

『今はつらくても、きっと前を向ける』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)