「そこにいたるまでにはお二人ともいろいろな葛藤の段階があったのかもしれません。」(清水先生)(撮影:鈴木慶子/写真提供:ビジネス社)

 しかし、主人は「はあっ?」と答えるものの、なかなか私の思いが伝わりません。何とか主人に伝えたくて、スマホのLINEに「腕がない方だからすぐにナビは無理」と書いて主人に送ったんです。

すると主人が、それをすぐ確認してくれたのはいいのですが、「腕がない?」と声に出して言っちゃったんです。えっ、どうしようと思ったら、運転手さんが「そうなんだよ。でも、不安に思わないでね。これでも無事故無違反で20年以上、ドライバーをやっているから。青森から出てきたんだけど、どんな道でも運転できるから。あんた大したもんだねって、青森の同級生にも言ってもらえているし、ちゃんと認定証ももらっているから安心して」と明るく言ってくれたんです。

しかも、「ちゃんとセミナーを受けているし、こんな私でも雇ってくれている会社があるのもありがたいよね」って。その話を聞きながら、なんかもうすごいなって鳥肌が立つほど感動しました。

自分の体の一部をなくすという経験は、おそらく尋常ではないショックだったと思います。でも、それを乗り越えて、しかも卑屈にならないで、落ち込んでいるだけではなくて、じゃあ、やろうってチャレンジしている。片手になったことから目を背けるのではなく、乗り越えて、運転手として働き続けている姿に頭が下がる思いでした。

でも、こういうおじさんのような方々が、まだまだたくさんいらっしゃると思うんです。私も舌の一部がなくなったぐらいで、めげていたらダメだなあ。頑張らないとって。そういうことも、私自身ががんになって舌の一部を切除するという経験がなければ、日常の中で見逃していたかもしれません。