「私もいろんな方から勇気をいただきましたが、とくに衝撃的だった方が二人いるんです。」(堀さん)(撮影:鈴木慶子/写真提供:ビジネス社)
2019年1月にステージ4の舌がんと宣告を受け、舌の6割以上を切除する大手術を受けたタレントで歌手の堀ちえみさん。一命はとりとめたものの、言葉に障がいが残ってしまい、一時は絶望に沈んでいたと言います。しかし、家族や多くの人々の励ましに支えられ、リハビリに励み、2020年1月より仕事に復帰しています。
がん専門の精神科医・清水研先生との対談という形で、その体験を振り返る堀さん。がんにならなければわからなかった、今まで感じられなかった〈気づき〉をたくさん得られるようになったという、「キャンサーギフト」についても話しています。

勇気をもらったおじさんたち

 私もいろんな方から勇気をいただきましたが、とくに衝撃的だった方が二人いるんです。お名前も知らない方ですけれど……。たぶん、がんになっていなかったら出会えなかったというか、初対面でここまでのお話ができたかどうかわからないと思います。

清水 ぜひ聞かせてください。

 一人は退院直後、リハビリのために通院していたときに出会った方です。

帰りに駐車場へ行く途中、松葉杖をついたおじさんがいました。70歳ぐらいでしょうか。駐車場へ抜けるための細い通路があって、私はそのおじさんの後ろをついて歩いていました。すると、その方が私に気づいてちょっと脇によけてくださり、「お先にどうぞ」とおっしゃるので、先に駐車券の料金精算機のところへ行って支払いをしていたんです。

そこへ、その方が追いついてこられて、何かを話しかけられたのですが、私はまだ今ほどはっきりしゃべれないときだったので、もごもごしてしまいました。それで話が通じなかったので、「実は舌を半分以上切ったので、言葉が不自由なんです」と、何とか必死で伝えました。

そうしたら「おじさんは足がないんだよ」と。そう言われて初めてパッと下を見たら、片足がなかったんです。でも、その方はお一人。「あれ? 片足ということは、車を自分で運転されるはずはない。お連れの方はどこなんだろう?」などと思ってしまい、怪訝な表情になったのだと思います。