(イラスト:はしもとゆか)
厚生労働省が2016年に実施した歯科疾患自体調査によると、80歳になっても自分の歯が20本以上ある「8020」を達成した人は51.2%と、前回2011年に実施した40.2%から増加していることが分かりました。歯の健康に関心が高まっている一方、親から十分な治療機会を与えられない子どももいます。歯並びが悪い、虫歯が多い、黄ばんでいる……。人から見ればささいなことでも、気になって気になって仕方がない。起死回生をかけて治療したものの、思うような結果にならず――。飯田恭子さん(仮名・千葉県・会社員・48歳)の場合は…。

矯正治療費を捻出できず

アルバムを開くと、幼稚園児だった頃の私の口元に目がいく。爪楊枝を溝のところで折り、その部分を赤茶色に塗ったような前歯が覗いているからだ。

山奥に建つ実家よりもさらに奥地の川沿いに山小屋のような歯医者はあったが、「乳歯はどうせ抜けるから」という母の考えで治療を受けたことがなかった。赤茶色の前歯は抜けたか溶けたかしたのだろう。小学校の入学式で撮った写真には、大きな2本の永久歯が並んでいた。

その頃、小学校から帰ると子どもたちは近所の家の車庫で遊び、母親たちは縁側で井戸端会議をするのが常だった。ある日、その家の男の子が歯に付けた針金のようなものを見せ、「これ《きょうせい》っていって、ガタガタの歯を真っ直ぐにするの」と得意気に教えてくれた。

山小屋の歯医者ではなく、2つ隣の市の駅前ビルにある歯科医院でやったそうだ。《きょうせい》より、そのビルの歯医者に行ってみたかったのだろう。虫歯の治療がしたいと駄々をこね、ディーゼルの汽車に乗ってその歯科医院に通うことになった。

私の歯は、ほとんどの乳歯が虫歯で、下の前歯は永久歯が数本出始めていた。医師によると、私の顎は平均より小さいらしい。生えてくる永久歯たちは横幅に収まらず、ガタガタと互い違いに並び始めていた。

中学校に上がると、200人弱の同級生の中で矯正をしていたのは3人ほど。手入れが難しいのか、矯正器具に歯垢が付いている男の子の様子を嫌悪していた一方で、鏡に映る自分の歯並びの悪さがとても気になっていた。