僕は、その日以来、あなたのことが忘れられなくてね。急に数時間だけ休みがとれることになり、思い切って手紙で食事に誘いました。それからもずいぶん、手紙を送ったもんです。

瑤子 その手紙、今も手元にあるのよ。「こうして月の光の漏れる宿であなたのことを考えながら手紙を書いています。今日一日、幸せだったかどうか。明日もきっと良い日でありますように、そればかり祈っております。いつまでもあなたの輝くような素晴らしい瞳で僕を見ていてください」ですって。

 うわあ、恥ずかしい!アホなこと書いてるなあ(笑)。でも、捨てずに持っていてくれたなんて。僕たちは、出会って半年後に結婚しました。当時人気の芦屋雁之助夫妻、小雁夫妻との3組合同披露宴、テレビ生中継という前代未聞の企画でね。その直後だったかな。瑤子さんが「1ヵ月、あなたに付いて仕事を理解したい」と言ったのは。

瑤子 そう。あなたが「朝早くて夜遅いけどできるか?」って聞くから、「大丈夫」って答えて。

 忘れられへんのは、映画『番頭はんとどん』の現場でのこと。本番が始まってふと気づいたら、あなたがどこにもいない。「僕の嫁はん、どこ行った?」とスタッフに聞くと、みんな一斉に上を指さして「あそこですよ」。

瑤子 撮影用のクレーンに乗ってた。

 監督さんとカメラさんしか乗ることが許されないクレーンに! しかも、真ん中に悠々と座って自分の8ミリカメラを回してたでしょ。あの時ばかりは、「うちの奥さん、なんて人だろう」と思ったよ。

瑤子 監督さんが、「乗ってもいい」とおっしゃったのよ。

<後編につづく

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