撮影◎霜越春樹
2021年11月9日に逝去された、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん。寂聴さんと男女の関係にあった小説家・井上光晴さんとの関係を、井上さんの娘である井上荒野さんが描いた小説『あちらにいる鬼』を原作にした映画化が、11月11日より全国で上映中です。寂聴さんは、既に妻子がいた光晴さんとの7年にわたる男女関係の末、出家を決意しました。当時の事情を語り合う二人ですが、そもそも荒野さんが父、母、そして寂聴さんの関係について書き始めたきっかけとは――『増補版-笑って生ききる-寂聴流悔いのない人生のコツ』にも収録されている『婦人公論』2019年2月26日号掲載の対談記事を配信いたします。

母の謎に迫るために執筆を決意

井上 この世には「これしかない」という男と女の組み合わせがあって、それが私の父と母であり、父と寂聴さんだった気がします。4年ほど前、父と母と寂聴さんの関係を書いてみないかと編集者から提案されて、最初は絶対嫌だとお断りしました。両親は亡くなっていましたが、寂聴さんについて書いた私の小説をご本人に読んでいただくなんて、そんな怖いことできない。(笑)

瀬戸内 私はなぜ書かないのかと思っていましたよ。

井上 ちょうどその頃、寂聴さんが体調を崩されて。回復された頃、江國香織さんと角田光代さんと、ここ寂庵に遊びに来たのです。夜までお話ししましたね。父の話もたくさんしてくださった。寂聴さんは本当に父のことが好きだったんだと実感し、その時に、書きたい、読んでいただきたいと思いました。

瀬戸内 書くことにしたと報告に来てくれたから、「どんどん書きなさい。何でも話します」と大賛成しました。

井上 執筆を決心した理由の一つに、母は一体どういう人だったのかと考えるようになったこともあります。父には常に、寂聴さん以外にも恋人がいた。だけど母は、少なくとも私たちの前ではつらい顔を見せることはなく、家の中は平和だった。なんでそんなふうに振る舞うことができたのか、不思議だったのです。