撮影◎霜越春樹

娘が小説家になるのが父の夢だった

瀬戸内 井上さんは、あなたが幼稚園ぐらいの時から、あの子は将来小説家になると言っていました。

井上 刷り込みですよね。(笑)

瀬戸内 初めてあなたの小説を読んだ時、ああ、これはすごいと思いました。その作品で、私が選考委員を務めていた「フェミナ賞」を受賞したんです。ご両親がとても喜んで。

井上 28歳の時です。ただ、そのあとの書けない時間が長かったのです。小説家として全然ものにならず、本当にダラダラして、恋人に依存して。

瀬戸内 病気もしましたね。

井上 はい。36歳の時にS状結腸がんに。当時、寂聴さんにはお手紙で打ち明けました。

瀬戸内 でも、私はね、必ず書くと確信していた。井上さんもそう思っていましたよ。

井上 父が亡くなる直前、私に「もう大丈夫だよ。ずっと書いていけるよ」と。根拠はまったくないのですけれど、自分に言い聞かせるように言っていました。