撮影◎霜越春樹
2021年11月9日に逝去された、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん。寂聴さんと男女の関係にあった小説家・井上光晴さんとの関係を、井上さんの娘である井上荒野さんが描いた小説『あちらにいる鬼』を原作にした映画化が、11月11日より全国で上映中です。寂聴さんは、既に妻子がいた光晴さんとの7年にわたる男女関係の末、出家を決意しました。当時の事情を語り合う二人ですが、そもそも荒野さんが父、母、そして寂聴さんの関係について書き始めたきっかけとは――『増補版-笑って生ききる-寂聴流悔いのない人生のコツ』にも収録されている『婦人公論』2019年2月26日号掲載の対談記事を配信いたします。

前編よりつづく>

不倫関係の清算のために51歳で出家した

瀬戸内 私が出家したのは、井上さんとの男女の関係を断つため。長くつきあって双方に飽きがきていましたし、私一人を思ってくれるような男じゃないことはわかっているのに、ダラダラと続きそうな雰囲気だった。井上さんは私のうちからあちこちの女に電話して、「今日は行けそうにない」「あと30分くらいで出るよ」なんて言っていた。私はそれを別の部屋の受話器で聞いていたのよ。「みんな聞いた」と言って、喧嘩したことがあります。そしてある日、「出家しようと思う」と私が言った。井上さんは「あ、そういう方法もあるね」と(笑)。出家後は、彼が亡くなるまで友人としてつきあいが続きました。

井上 けれど、出家すればほかの人とも恋愛できなくなります。それでよかったのですか? まだ51歳でしたよね。

瀬戸内 その時、実は私にも若い恋人がいたんです。

井上 え?

瀬戸内 それも面倒くさくなってね。過去の男もみんな、私が出家するって言っても誰も止めなかった。ひどいと思わない?(笑)

井上 父以外にもう一人いらした?