荷物はバックパックと肩掛け鞄だけと最小限。携帯用電源につなげたタービンで入れ歯を削り、患者の口の状態に合わせる

その後、発声や飲み込みの障害に対してリハビリテーションを行う言語聴覚士(ST)や、管理栄養士とともにチームで訪問診療を行うと、市村さんは瞬く間に回復。治療開始から1、2ヵ月で普通食に戻り、4ヵ月足らずで胃ろうを外すことができた。

「リハビリ病院を退院したとき、夫は入院時から20キロぐらい痩せていたんです。でも口から食べるようになったら、どんどん元気になって元の体重に。今は、以前のように食事と一緒に少量のワインも楽しめています。もし先生に出会わなかったら、今も胃ろうのままだったかもしれません」

 

専門職の連携で効果アップ

歯科医が訪問診療で腕を振るうには、ケアマネやヘルパーなどの介護職のほかに、歯科衛生士や言語聴覚士、管理栄養士などエキスパートとの連携が欠かせない。ふれあい歯科に所属し、前述の市村さんのサポートにも入っていた管理栄養士の稲山未来さんに話を聞いた。

「それまでまったく口から食事を摂れていなかった方が治療によって飲み込めるようになっても、どうやって食べるかということはまた別の問題です。場合によっては調理の工夫や、細かい配慮が必要になってくる。そこで歯科医の治療効果を最大限に高めるために管理栄養士が入るのです」