「食べられない人が栄養状態を保つために胃ろうにするのはいいけれど、誤嚥性肺炎を起こしたから胃ろうにして、もう二度と口から食べられないというのは間違いです」(五島朋幸先生)(撮影:本社写真部・奥西義和)
食べることは生きる喜びだという人も多いはず。食べ続けるためには、口腔内の健康維持が欠かせません。そこで、在宅介護を受ける人でも利用できる「訪問歯科診療」が注目を集めています(撮影:本社写真部・奥西義和)

<前編よりつづく

水とせんべいを使って診断

五島先生の現在の訪問診療では、主に入れ歯の調節を行っている。しかし月に一度ほどは「食べられないので診てください」と、ケアマネや患者の家族から依頼が入る。その場合はまず、ちゃんと噛んで飲めるかという「咀嚼能力」と「嚥下能力」のチェックから診療を開始する。

「方法は水を飲んで軽いせんべいを食べてもらうこと。それだけで口腔内がどんな状態かほぼわかります。口から食べられないときこそ、歯科医の出番。内科医は『口から食べるのをやめさせる』ことはしても、『食べさせるようにする方法』はわかりませんから」

実は「胃ろう」が普及し始めた2000年ごろから、胃ろうを造設した人が、誤嚥性肺炎を起こすのを恐れるあまり、口から食べるのをためらうケースが増えてきたのだという。

「食べられない人が栄養状態を保つために胃ろうにするのはいいけれど、誤嚥性肺炎を起こしたから胃ろうにして、もう二度と口から食べられないというのは間違いです。

たとえば、ケガで長い間寝たきりだった人が、急に歩けばヨロヨロするのが普通でしょう。それを『手をついたからアウト。もう歩いちゃダメ』と言っているのと同じ。

むしろ口から食べないと体力が落ちるので、逆に誤嚥性肺炎の危険性が高まります。胃ろうをうまく使って体力を上げながら、可能なら噛んで食べる量を増やしていくのが理想です」