今だから書けた友情物語
今回の『水底のスピカ』も「こんな関係、理想的だよね」というおとぎ話のような友情、10年後にも会いたいと思える関係性を思い浮かべながら執筆しました。
物語の舞台は、北海道の高校。そこへ容姿端麗で頭脳明晰なスーパー転校生の美令が現れます。ある秘密を抱えた彼女は、近寄りがたい雰囲気の美少女。みんなが気後れするなか、彼女に近づいていくのが和奈でした。
和奈は、いたって普通の高校生ですが、自分を特別な存在だと信じている勘違い少女。平凡な人生には意味がない、その他大勢の脇役には価値がないと思っています。でも、それがこの世の大多数の人々を見下す傲慢な態度だとは、気づいていません。そんな和奈が成長していく姿を描きたいと思いました。
最後のひとり、更紗はつらい過去を抱えた少女です。彼女を通して描きたかったのは、悲しみや痛みの大きさは他人と比べられないということ。そこには、私が父を亡くした時に感じた思いも込めています。
84歳の父ががんで入院し、1ヵ月も経たずに亡くなった時、周囲からは「いい死に方だったね」「介護せずにすんでよかったよ」と言われました。悪気のない、慰めの言葉だということはわかります。
でも、私には「よかった」なんて思えなかった。どのような死に方であれ、家族を亡くせば悲しい。「よかったね」と言われたことで、悲しむ気持ちを封じられたようで、感情が行き場を失ってしまったのです。
高校生を主人公とした青春小説ですが、今だから書けた物語ですし、いろいろな経験を重ねた『婦人公論』世代の方こそ、彼女たちの心情に寄り添えるのではないかと思います。