しかし、看護師になるまで4~5年かかるため、資格が取れるのは50歳前後。それから働くことができるのか。膨大な医療の知識を覚えられるのかも不安材料。ただの専業主婦が一から勉強をするのは、年齢的に難しいかも……と、ずいぶん悩んだという。
ためらう大堀さんの背中を押してくれたのが、51歳で医師を目指した女性の新聞記事だった。
「3度目の挑戦で、医学部に合格したそうです。卒業時には60歳になっていた彼女の、『高齢者医療のために尽くしたい』という言葉に感動して。私にもできるかもしれない。何もしないで後悔するより一歩踏み出してみよう、と思いました」
とはいえ、最初から正看護師の学校や看護大学の受験に向けて勉強をするのは、ハードルが高い。そこで彼女が選んだのが准看護師の学校だった。准看護師の学校は受験勉強も必要ないし、入学資格は中学卒業以上。そして、一日の授業時間が短いのが、自分に向いていると思ったという。
45人の同級生の中には、大堀さんと同じく子育てが一段落した主婦や、資格を取ってキャリアアップを目指すシングルマザーなど、さまざまな事情を持つ女性たちがいた。不安だった勉強は、コツコツ覚えることで、20歳前後の若者とも互角に勝負できるようになったという。
「でも体力的には、若い人にかないません。病院の実習では朝から立ち通しのうえ、その日の記録をまとめるために2~3時間しか眠れない。徹夜で実習に向かった時は、患者さんより顔色が悪かったかも(笑)」
48歳で卒業して准看護師の資格を取得したものの、「もう少し勉強して、正看護師になりたい」という思いが募り、翌年、看護学校に再入学した。
「さすがに50歳を過ぎると、以前はすんなり覚えられたことが倍の時間をかけても難しい」という苦労を経ながらも、51歳で晴れて正看護師の資格を取得。そして、25年間の専業主婦生活にピリオドを打ち、自宅近くの内科クリニックで看護師として働き始めた。
「国際電話で看護師を目指すことを報告した時、夫は『それはいい』と大賛成。帰国した現在は、私が仕事に出る日は掃除を手伝うなど、協力してくれています。ちょっとした友達とのランチや化粧品を、自分で働いたお金で払えるようになったのが嬉しいですね。『自分でがんばって手にした仕事』を持って、本当に良かったと思っています」