報酬だけとり仕事をしない職業後見人
他の先進国では、日本とは逆に親族後見人が6~7割を占めている。認知症高齢者の人生や趣味や嗜好などを一番よく知っている親族が後見人になるのが自然だからだ。
先の宮内氏はこう語る。
「高齢者個人のお金を“個計”と言います。職業後見人の中には“個計と家計を分けずに使うのは横領に当たる”と主張し、家族を“横領罪で告訴する”と脅す者までいます。親族による横領とみなされたケースにはこういう事例が多いと思われますが、職業後見人のうち、個計と家計を分けている人が何人いるのでしょうか。これについては国民的議論が必要だと思います」
なお、本人名義の預貯金が1000万円以上(東京都は500万円以上)ある場合、家裁は弁護士などを後見人につけるのが一般的で、親族は基本的に後見人になれないのが実情だ。
さて、弁護士が弟の財産管理をするようになったことで、山岡兄弟の生活は一変する。和夫さんが語る。
「弟が倒れる少し前、両親が相次いで病に倒れた。両親と弟の希望で、私は仕事を辞めて3人を在宅介護することになりました。その後、両親が亡くなって両親の年金が入らなくなり、そこに新たに弁護士後見人への報酬などが発生。生活は苦しくなりました」
和夫さんのような親族後見人は基本的に無償だが、職業後見人には報酬が発生する。報酬には基本報酬と付加報酬(ボーナス)がある。基本報酬は、本人の預貯金額に比例する。本人の預貯金額が1000万円以下だと月額2万円(年間24万円)、1000万~5000万円だと月額3万~4万円(同36万~48万円)、5000万円以上だと月額5万~6万円(同60万~72万円)程度が一般的だ。
また、本人名義の不動産を売却すると100万円程度のボーナスがもらえるなどの仕組みもある。
基本報酬が預貯金額に比例する以上、職業後見人側には報酬額を維持するため、できるだけ本人の預貯金額を減らしたくないというインセンティブが働きやすい。そのしわ寄せは本人と家族に来る。
「弟は、弁護士後見人に毎月5万円、年間60万円も報酬を払っています。一方、後見人は私たちの生活費を切り詰めさせ、弟の毎月の障害者年金21万円のうち15万円しかこちらに渡さない。それでは生活できないので、私のわずかな預貯金を取り崩して生活費に充ててきました」(和夫さん)
それでも、弁護士後見人が報酬に見合う仕事をするなら我慢もできるが、後見人が自宅を訪問するのは年に1回だけだという。
「それも、持参した弟の財産目録を見せて10分ほどお金の話をすると、さっさと帰ってしまいます。後見人は私たち兄弟に何の関心もありません。後見人は一度として、私に介護の苦労を聞いたことも、弟に話しかけたこともありません」(同)
竹下さんと山岡さんは、銀行や自治体、不動産業者の勧めで成年後見制度を利用することになったが、家族間の争いから、成年後見制度が“悪用”されるケースも少なくない。