人権侵害を引き起こしかねない危険な側面も

東京都在住の中村正さん(66歳・仮名)と裕子さん(60歳=同)夫妻は正さんの母親の後見人に妨害され、2年以上も母親と面会することができなかったという苦い経験を持つ。

「母が埼玉県内の老人ホームに入っていた時、受付で“母に会いたい”と伝えても“後見人の弁護士さんから、息子さん夫妻が来ても会わせるなと言われている”と言われて面会を拒否されました」(正さん)

なぜ、こんなことが起きたのか。

正さんの母親の幸子さん(95歳=同)は、東京都内でマンションを経営する資産家だった。幸子さんには長男の正さんと長女の2人の子どもがいる。正さんは、勤め先を退職して母の代わりにマンション管理をしていた。

「母は自分名義のマンションの一室に一人で住んでいました。ところが7年前のある日、私が知らないうちに姉夫婦が母を車に乗せて、埼玉県内の老人ホームに連れて行ってしまったのです」(同)

老人ホーム入居時の身元保証人は姉の夫だった。姉夫婦の行動に正さんは不信感を募らせた。

「それで調べると、姉夫婦は母の財産を自分たちで管理し、“全財産を長女に相続させる”という遺言を書かせていました。母の預貯金の使い込みも見つかった。母の財産を守り、母を自宅マンションに戻すべく、私は母に第三者の後見人をつけるよう家裁に申し立て、弁護士が選任されました」(同)

ところが、この後見人がまるでやる気がなかったと正さんは言う。

「施設に入れておけば施設任せで、後見人は面倒な身上監護をせずに済む。この点で姉夫婦と思惑が一致したのでしょう。後見人は家に帰りたがっていた母を私に会わせないようにしたのです」

そもそも成年男女には、認知症のあるなしにかかわらず、どこに住み、だれと会うかを自分で決める権利があり、後見人がそれを侵害することはできない。

「ところが老人ホームや病院、自治体、弁護士や司法書士の中には、“被後見人(後見をつけられた認知症高齢者のこと)には判断能力がないのだから、住居や面会相手は後見人の一存で決められる”と誤解している人が驚くほど多い」(宮内氏)

正さんは自治体に「施設や後見人に親子の面会を禁止する権限はない」ことを確認し、さらに幸子さん本人が正さんと会いたいと意思表示したのを踏まえ、2年ぶりに面会を実現させた。

「その後、母は施設を出て自分のマンションで暮らしています。以前の暮らしに戻りたいと母が強く意思表示したため、後見人も認めざるをえなくなったのです」(正さん)

このように成年後見制度には、一歩間違えば重大な人権侵害を引き起こしかねない危険な側面もある。