それまで勤めていた会社が遠方に移るというので辞め、隣町にある小さな会社で事務員として働き始めました。そこでは通勤が不便な私のために、男性社員が交代で送迎してくれることになったのです。
新しく入社してきた男性社員に送ってもらった時のこと。最初から馴れ馴れしく話しかけてくるその人に違和感を覚えたのですが、数日後、またその人に送迎してもらった際、「俺、離婚して男の子が2人いるんや。養護施設で預かってもらってる」と身の上話をしてきました。
関係ないわと思いながらも、「早よ、子どもを迎えに行ってやりや」と答えると、その日以降、彼は勝手に家にやって来るようになったのです。
彼は蛍を見たことがない私のために採ってきて見せてくれました。あの手この手で父にまで近づこうとするのですが、父は、その人が離婚していて、2人の子どもが養護施設に入っていることを私から聞いて、「そんな男はだめだ。会社を辞めろ」と激怒。私は退社することになりました。
けれど、私をどこかで見張っているのか、外出すると彼が目の前に現れるのです。意を決して「何か用事があるの?」と聞くと、「結婚してほしい。子どもを早く養護施設に迎えに行きたい」と言います。まるで私が、「児童養護施設にいる子どもを養子に迎えたい」と望んでいることを見透かしているかのようです。
でも、この人の子どもたちがかわいそうなのは事実。だんだんと、私が産んだ子どもの話をされているような、暗示にかけられた気分になって、父の反対を押し切り、駆け落ち同然で一緒に暮らすことにしたのです。