18歳の時ステッキとの偶然の出会い

山田さんとステッキとのかかわりは、長くて深い。3歳の時に当時の日本で大流行したポリオに罹り、左半身に後遺症が残ってしまう。小学生の頃は一人で歩けず、母親に背負われて登校したという。中学校に通う頃には両手で松葉杖を使えば歩けるようになったが、公共の場がバリアフリーになる以前の時代。苦労もあったのではと訊ねると、

「言われてみればそうだったかしら(笑)。昔から能天気なので忘れちゃうんですよ。中学校では乗馬も習いましたし、自転車も右足だけで漕ぐコツを覚えたらけっこう乗れるのよ」

18歳の時、偶然の出会いから当時日本一と言われた整形外科の名医の執刀を受ける機会を得た山田さんは、ステッキ一本で歩けるようになった。

「当時ステッキは傘屋さんが扱っていて、サイズは選べるほど多くなく、デザインも全然おしゃれじゃなくて。その頃就職してお洋服を買えるようになったのですが、当時の写真でステッキが写っているのは一枚しかないんです。無意識に隠したいと思っていたのでしょうね」

1)パワーストーンとも呼ばれる宝石は、古来、杖の飾りとしても人気だ。こちらはトルコ石とルビー、花の装飾がちりばめられた1920年代の杖
2)ハンドル下部(犬の台座の裏側)の出っ張りを押すとパグ犬の口が開き、尻尾を振る仕掛けになっている。シャフトは斑模様の整ったスネークウッドとの組み合わせで、とても貴重だという
3)中国皇帝の杖。七宝で鶴と松が表現され、全体に漆がほどこされている。上部にある赤い飾りは赤サンゴ