貴重な杖のコレクション が部屋中に飾られた山田さんの自宅。テーブルの上にいるのは、愛猫のまろちゃん(撮影◎大河内禎)
みなさんは「杖」にどんな印象を持っていますか? 人生の大半を杖とともに歩み、日本初のステッキ専門店の創業者でもある女性がいます。山田澄代さん、83歳。彼女が巡り合った貴重なコレクションを見せてもらうためご自宅を訪ねると、そこには煌びやかな世界が広がって――(取材・文◎山田真理 撮影◎大河内禎)

日本で初めてステッキ専門店を開業

「ようこそ、いらっしゃいました」。扉を開けたその人が、魔法の杖を振ったのだろうか。目の前には、めくるめく別世界が広がっていた。精悍な獣が彫られた象牙、優美な花模様を描いた陶器、きらめくカットグラス、渋く輝く銀――多種多様なデザインと素材のステッキが、部屋じゅうを飾っている。

「ヨーロッパでは、アンティークのステッキをインテリアとして楽しむことも多いんです。といっても、私みたいに所狭しと並べる人は少ないでしょうけど(笑)」

と悪戯っぽく笑う山田澄代さん。日本有数のアンティーク・ステッキのコレクターとして知られ、1997年には日本で初めてステッキ専門店を開いた。その製造、輸入、販売を手掛ける会社の経営者としても活躍を続けている。

(〈5リス〉写真提供:山田さん)
1)手のひらの肉付きや手首の皺がリアルな杖。手にとまっている小鳥は貴石を彫刻したジョウビタキ。握った手の中は空洞になっていて、花を挿すことも可能だ
2)頭部に鳩の飾りを付けた杖を鳩杖と呼ぶ。高齢者の長寿を祝うために贈られる。こちらは中国の七宝焼の鳩杖。古代中国では鳩が老人の気の衰えを防ぐものと考えられていた
3)1880年頃にイギリス・ヴィクトリア女王のガラス工房で作られたガラスの杖。杖先も含めて全体にひねりが加えられており、無色透明で先端にいくほど細くらせん状になっている
4) ハンドル(握り手)部分にアラビア文様が施された杖。実際にモスクで使用されていたという。シャフトと呼ばれる支柱部分の素材はべっ甲巻きで、大変貴重な一本だ
5)象やライオンなどの大きな動物からリスやトカゲなどの小さな動物まで、たくさんの生き物が杖のモチーフに。木彫りのリスの杖は明治の実業家、藤田傳三郎氏が愛用していたもの