現在は別店舗のテイクアウト専門店「パーラーちばる」も開設。こちらのスタッフは認知症の方と地域の一般高齢者が半々だ。

仕事を任され、多くの人と交流するうちに、働く人たちもどんどん変化していく。脳血管障害から認知症を発症したノリコさん(70代)。発症以降ひきこもりがちになり、就労初日はボサボサの頭に、ニットのキャップを被ってきた。

「ところが初出勤の翌日に美容院に行って、すごくきれいになった。働くことが脳を活性化させたんですね。彼女はカラオケ喫茶経営など飲食店の経験が長く、スナックにいたこともある。そこで試しに夜『スナックちばる』というのを企画してたところ、当日、黄色いセットアップのドレスで現れたんです。それを見て感動してしまって。

スナックというワードで当時を思い出し、簞笥から衣装を出してきた。自分が輝いていた時代のことは覚えているんです」

ノリコさんは、いまや「ちばる」の顔となっている。もう1人の名物スタッフは、今はお休みしているが、近々1日だけ復帰する予定のタカオさん(80代後半)だ。就業時間の3時間のうち2時間40分は椅子で居眠りしているタカオさん。それでも、いつも前向きな彼に会いたくて来店するファンが多い。

「汗水垂らすだけが働くことじゃない。いろんな働き方があるんだと、教えてもらいました。まあ、その裏では僕が厨房で汗水垂らしているんですが(笑)。でも、寝ていてもお客さんが会いに来てくれるなんて、僕には真似できませんからね」

認知症になれば、できないことは増える。だが人生経験が豊富な高齢者に、市川さんは素直に人としての敬意を持っている。

「だって社会人としてのレベルは僕らよりもずっと上ですから。たとえば高校生と認知症のお婆ちゃん、一方を採用するとしたら、お婆ちゃんを選びます。仕事のための教育や指導も必要ないし、即戦力ですよ」

コロナ禍で経営に決して余裕はない。それでも社会に新しい選択肢を増やしたいという思いで、今日も「ちばって」営業中だ。

 


《ルポ》病を得ても働ける場所が増えている・お給料と生きがいと
【1】ふるさと納税の返礼品にも選ばれて――sitte
【2】雇用条件は、認知症であること――ちばる食堂
【3】高齢者が高齢者を支えるしくみ――100BLG