「すべての表現は自由であるべきだ」
そして現代の日本でも、コロナの自粛要請に従わない飲食店に対するバッシングが起こるなど、当時の「隣組」を彷彿とさせる状況に陥っていることについて「《自粛》という概念が、いかに容易に、他人の自由を束縛するものに転化するかを、我々は目の当たりにしました」と会場に語り掛けました。
2011年の福島原発事故以来、日本社会の同調圧力が強まっているという危惧から『日没』を書いた、と話す桐野さん。『日没』は、ある作家が、読者の告発によって政府の収容施設に入れられ、思想矯正を受ける物語です。
一方で、配偶者がいる男女の恋愛小説を刊行した出版社に「不倫の話なんか書くな」という抗議があったことを例に出しながら、「《正しい》ものだけを求める気持ちが、大衆的検閲へと繋がっていく」と危機感を募らせます。
「文学には、人間の弱さを基礎とした、〈他者への想像力〉がその根幹にあります。そして、自分自身と他者との関係のなかに、新しい価値を創造してゆくものなのです」
「すべての表現は自由であるべきだ」という力強い言葉でスピーチを締めくくった桐野さんの元に、会場から「我が国も似た状況になっています」といった感想が寄せられました。あまりにも多い共感の声に、「日本以外の場所でも同じ状況なんですね」と驚く桐野さん。