「ゲバ棒で闘うのは男たち。女性は後方支援です。だから女性は、屈辱感を抱く。」(上野さん)

バリケード内の男女の役割

酒井 上野先生のご著書『フェミニズムがひらいた道』で、そうか! と思ったのが、フェミニズムの第二波が発生したのは新左翼運動への反発だった、という部分です。運動内でも、男女の差は大きかったのですね。

上野 世界的に学生運動から性革命が起きた時代、性道徳に挑戦するのはカッコいいとされました。それなのに、男性は性経験の多さが勲章になり、女性にはスティグマ(不名誉な烙印)となった。ここにもジェンダーの非対称性があります。

酒井 学生運動をしていた男女のセックス事情は、どのような感じだったのでしょう。

上野 当時は、上村一夫の『同棲時代』という漫画や、かぐや姫の「神田川」なんてフォークソングが大流行。学生の同棲率が高かった。でも避妊法が不完全で、妊娠、中絶を繰り返す女性も多く、心身ともにボロボロになりました。

酒井 学生運動に参加するような女性は平等思想をきちんと持っていたのかと思っていましたが、彼女たちも「避妊してほしい」とは言えなかったのですね。

上野 だって、それまでのジェンダー意識を抱えたまま運動に向かったわけですから。

酒井 バリケード内でも、男女の役割分担はきっちりあった。

上野 ゲバ棒で闘うのは男たち。女性は後方支援です。だから女性は、屈辱感を抱く。私もバリケードの内側で大量のおにぎりを握りながら、「形が悪いのは上野が握ったおにぎりだ」などと揶揄されて、どれだけむかついたか(笑)。

ですから私はいわば、ルサンチマン(恨み)からフェミニズムの道に進んだわけです。あの日、あの時、あの場であの野郎が私に何を言ったか、ちゃんと覚えておりますから。(笑)