世界観は壊すべからず

この学科で、グラントさんが一番重視するのが、超抜群のコミュニケーション能力を養うことだ。テーマ性を持ったエンターテインメントを形にしていく場合、他の業界以上に、全く畑違いの分野の人とコミュニケーションを取る機会が多い、というのがグラントさんの見解だ。

アメリカのオーランドの夜景(写真提供:Photo AC)

「学生はみんな、テーマパークをデザインしたいという気持ちで入ってきます。でも実際のところ、それは誰かが一人で部屋に篭もってデザインしたものを建築家やエンジニアが形にするということではなく、100種以上の分野の専門知識が集結してデザインされた共同制作物なのです。

例えば照明だけでも、ショーライトや、視認性のための照明や、テーマライトをはじめ、5〜6種類あるのです。学生が一番優れた建築家や、一番優れたエンジニアになる必要はないですが、大勢の人と協力することに関して一番優れた人材になる必要はあります」

とグラントさんは語った。そこで入学して最初のセメスター(学期)はひたすら、コミュニケーションを系統的に学んで実践することを行っている。グループで行う実習でライド(乗り物)やショーを設計し、必要物資を全てまとめた60ページ超の企画書も作る。

実際に就職した時に遭遇する課題についても学習する。

グラントさんが言うには、一般的な建築家と比べてアトラクション制作に携わる建築家にとって課題となるのは、安全面への配慮や条例で定められた規定を守りつつ、デザイナーが描いているものなどの必要要素を、テーマ性を壊さずに実現する方法を考えることだ。

例えば非常口サインを設置する場所。洞窟を模した空間に、あからさまな出口表示があっては洞窟の雰囲気がきれいさっぱり消えてしまう。また、火災の可能性を考慮し、消防車が入りやすいレイアウトも担保する必要がある。建築に使う材質も大切だ。

「一年中高温多湿のフロリダでは、木材は劣化しやすく厄介なので建築物の素材に向いていません。ですが世界観を作り出すために木材を使いたい場合は往々にしてあります。

そうした時は代替品でプラスチックやコンクリートを使うことが考えられますが、これもまた材質の特性を考慮する必要があります。プラスチック製の建築物は、燃えた時に有毒ガスが発生し危険なので、プラスチックの種類や使う場所に関してはノウハウが蓄積されています」

とグラントさん。

世界観を守るためには外見はもちろん、質感の美も損なってはならない。木材の簡単な代替案として、発泡スチロールのような材質を堅いプラスチックでコーティングして木材に見せるといった方法があるが、もし来場客が触ってノックすることがあったら、安っぽく感じてしまう。

「そこで、手の届くところだけは本物の木材を使い、手の届かない高い所にだけプラスチックを使うなどといった判断を下すのです」

とグラントさんは言う。