貴景勝は心も磨いて相撲道を歩いている

今場所、最高に奇妙な相撲は、9日目の前頭4枚目・錦富士と前頭7枚目・宇良の対戦だった。錦富士が回り込んだ勢いで自ら倒れる時に、宇良は錦富士に触らず、「落ちて、落ちて」という感じで腕をのばして手を上下にパタパタさせた。

決まり手は「はたき込み」と館内に放送されたが、NHKテレビの実況の吉田賢アナウンサーは「空中はたき込み」と名付けていた。私には「落ちて、落ちて!の念力はたき込み」に見えた。宇良は7勝8敗と負け越したが、来場所も奇妙な相撲を見せてほしい。

なんといっても嬉しいのは、元大関の十両12枚目・朝乃山の優勝だ。成績は14勝1敗。朝乃山はコロナ禍のコンプライアンス違反による6場所連続休場で三段目から這い上がってきたが、十両を一場所で通過して、幕内に戻れるだろうか?いずれにしろ来場所が楽しみだ。

幕下15枚目格付け出しでデビューしたばかりなのに、全勝で優勝した19歳の落合が、今後どう活躍するかも注目だ。今場所後に断髪式をする宮城野親方(元横綱・白鵬)の部屋の力士で、優勝を決めた翌日のスポーツ新聞の紙面の掲載面積が大きく、横綱優勝のようだった。

私は今場所、勝ちたい、勝たなければならないという緊張が、いかに体を動かなくするか、連敗がいかに心を暗くするか、という心の問題を学んだ。

私は若い頃、ピアニストを目指している友人から「坐禅を組んで無心になりたいので禅寺に行くから付き合ってくれ」と言われ、禅寺に行った。坐禅のやり方を僧侶に聞いてやってみたが、頭の中がいかに雑念だらけかということを知った。自宅で何度も坐禅をしたが、無心になることは無理で、悩みと雑念のあるがままで生きるしかないと悟った。

そのことを思い出し、貴景勝は、あらゆる困難を受け入れ、勝負に勝つだけでなく、心も磨いて相撲道を歩いているのだと知り、感銘を受けた。

イメージ(写真◎AC)

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