夢の世界から現実の社会へ

―――退団してから何をするか…。自分自身のセカンドキャリアを在団中から具体的に考えているタカラジェンヌは多くはないだろう。達さんも、自分が何をするか、という具体的な計画があったわけではないという。

タカラジェンヌって、歌と踊りとお芝居しかしたことがないんですよ。それだけやっていればいいという幸せな空間の中で守られている。アルバイトもやったことがないし、社会を知らずに夢の世界に生きてきているので、現実の社会の厳しさも理解できていません。

ただ、高熱が出ていても骨折していても、立てる限りは舞台に立つ、という覚悟を経験していますから、結婚したタカラジェンヌたちが、少々の熱で休もうとするご主人に対して厳しいというのは、タカラジェンヌあるあるなんですけどね。(笑)

退団して、まずは熊川哲也Kバレエカンパニーでキャラクターアーティストとして多数の舞台に出演しました。王妃の役などが多かったのですが、男役時代とは真逆の綺麗なドレスを着て、バレエダンサーと舞台に立つという、宝塚とはまた違う舞台の楽しさを経験させていただきました。でも、自分はいったい何が向いているのだろうと考えたときに、本来、表に出るタイプではないし、人をサポートする仕事がしたい、という気持ちに気づきました。

宝塚も私たちを支えてくれる方々のサポートで舞台が成り立っているわけだし、在団中も舞台の裏でがんばっている方たちの仕事に興味が沸いていました。かといって、舞台のスタッフができるわけではない。そんなときに、デサントの新規事業としてフィットネスクラブのプロデューサーのお仕事の話をいただき、ヨガもフィットネスも経験がなかったのですが、やらずに後悔するのはいやだと思ってお引き受けしました。

それからは、未知の世界を1から広げるために、手当たりしだいヨガやピラティスを経験。ウェアの着心地を試したり、レッスンの内容を体験したり、情報を集めて東奔西走の毎日です。新規のプログラムを提案、先生方のシフトを組むなど、やることは山のようにあります。それはすべて、裏方の仕事。でもそれで誰かの助けになるなら、それがうれしいんです。講師の先生には元タカラジェンヌたちを招いており、先生も生徒もとても楽しんでくださいました。