都市だけに人が暮らして、それ以外が無住地であった日本列島なんか誰も一度も見たことがない(撮影・中森健作)

妄想では終わらない

うかつに道路を離れて無住地に迷い込むと、太陽光パネルや発電用風車や産廃処理場だけが広がるディストピアにでくわすか、森に覆われ、野生獣が横行する「野生のエリア」に入り込む。「国破れて山河あり」と言いますけれど、もう天変地異や戦争で都市部が居住不能になっても、逃げ出す先の「山河」がなくなる。

そんなのは内田の妄想だよと笑う人がいるかもしれませんけれども、「都市集中シナリオ」というのはそういうリスクを抱えている。だって、過去に一度もそんなシナリオに基づいて制度設計をしたことがないんですから。

全国津々浦々に人が暮らしていた時代は存在しますが、都市だけに人が暮らして、それ以外が無住地であった日本列島なんか誰も一度も見たことがないんです。一度もなかったことですから、そこで何が起きるか誰にもわからない。

特に「都市集中シナリオ」を選ぼうとしている人たちは「野生の繁殖力」を過少評価していると思います。人が住まなくなった後に土地がどれほど急速に野生に覆い尽くされて、制御不能になるかについて十分な知見を持っているとは思えません。

すでに都市近郊でも野生獣による獣害が増えています。文明と野生の間の緩衝帯であった里山が空洞化したことの結果です。これまでは里山が野生の力を押し戻して、「ここから先は人間の領域だ」と宣言していたのですが、里山が過疎化で痩せ細ってきて、野生を押し戻す力が弱まっている。都市部に熊や猪や鹿が入り込んできて、街中で人的被害が出るということも遠からず起きると僕は予測しています。