激変する世界で、自分の生きる道を見つける

若い頃に20歳くらい年上のビジネスマンとお話しした時に「僕らが大学出る時、一番人気のあった業種は何だかわかるか?」と訊かれたことがありました。その人は東大工学部卒だったのですが、1950年代の学生に一番人気があったのは「冶金(やきん)」だったそうです。

「冶金」なんて言っても、今の学生さんたちはそれがどんな漢字で、どんな業種かもわからないでしょうね。鉱石から金属を取り出して精製加工することです。地面から自然資源を掘り出すことが日本の主要産業だった時代があったんです。

産業構造はそうやってどんどん変わります。造船や製鉄が花形産業だった時代があり、ゼネコンや総合商社や百貨店が花形だった時代があり、自動車やコンピュータが花形だった時代があり。今はAIやロボットや仮想通貨や仮想現実が経済を牽引していますけれども、これだっていつまで続くかわからない。

世に「実学」と称されるものの多くは「一昔前だとよい給料になった仕事」のことです。

これから世の中は激変していきます。もう昔の成功体験はあまり参考になりません。自分の直感と想像力を駆使して、これから世界はどうなるのか、それをしっかり見つめて、自分の生きる道を見つけてください。

※本稿は、『君たちのための自由論――ゲリラ的な学びのすすめ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


君たちのための自由論――ゲリラ的な学びのすすめ』(著:内田 樹、ウスビ・サコ/中公新書ラクレ)

かたや哲学者であり武道家、かたやアフリカ・マリ出身の元大学学長。2人の個性派教育者による、自由すぎるアドバイスとメッセージ。曰く、「管理から逃れて創造的であるために、もっと“だらだら”しよう」「“ゲリラ的”な仕掛けで、異質なもの同士の化学反応を生み出そう」「将来は“なんとなく”決めるべし」「世の中に“なんでやねん!”とツッコミを入れよ」。若い人たちが「大化け」するための秘訣を、コロナ禍の教育現場から発信。