(撮影◎本社・奥西義和 以下すべて)
カラテカ・矢部太郎さんは芸人として活躍する中、『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞、漫画家デビューを果たし、活動の幅を広げています。今回、認知症専門外来・長谷川嘉哉先生が著した『ボケ日和』を原案として、認知症患者とその家族の日常を描いた『マンガ ぼけ日和』を刊行。母親が介護職に就いていたことがひとつのきっかけになったそうで、今回はそんな矢部さんが「老い」と「介護」について語ります。
(構成◎内山靖子 撮影◎本社・奥西義和)

「老い」や「介護」について、もっと知るために

今回、僕がこの漫画を出版することになったのは、原案である長谷川嘉哉先生の『ボケ日和』のイラストを担当させていただいたことがきっかけです。なぜ、漫画化をお引き受けしたかと言えば、それまで自分が「老い」や「介護」に対して漠然と抱いていた不安が、先生の本を読んだときに和らいでいったから。もちろん、まったく不安がなくなったわけではありません。でも、先生の本のおかげで、「老い」や「死」に対して、自分が何となく受け入れられるようになったと言いますか……。

認知症になるのも老いていく上で自然なことだから、「介護をする側も頑張り過ぎず、ほどほどで十分」と、長谷川先生はおっしゃっている。先生のお母様が介護で辛い思いをされたことから、女性や身内だけが介護を背負う必要もないと強調されている。そんな先生の言葉をもっと多くの人に届けたい。仕事や家事で忙しい人、介護の真っ最中で精神的な余裕がない人でも、漫画なら気軽に手に取ってもらえるかもしれない。そんな思いで、この漫画を描くことに決めました。

もうひとつ理由があって、これまで僕が描いてきた『大家さんと僕』『ぼくのお父さん』などの作品も、すべて僕自身が興味のあることを題材にしてきたんですね。もっと知りたい、考えたいということを、漫画を描くことでゆっくり考える時間が持てて、それが作品になることで腑に落ちるところがあったのかもしれません。今回も、「介護」や「老い」について、もっと知りたい、考えてみたいという思いが強かったので、「仕事」としてお引き受けすれば、その時間がたっぷりとれるだろうと思ったんですよ。

こんなことを言うと出版社さんに怒られるかもしれませんが、「万が一、出版されなくても、介護の現実を知ったり、考える時間を持てただけでラッキー」っていう感じで(笑)。それが、この漫画を描こうと決めた一番の動機かもしれません。