「普通」でいたい子どもたち

信田 花は自分がおかれた環境から出るために、15歳から必死にお金を稼いだ。一方で現実には、自分でどうしていいかわからない子どもたちもいます。小説の中の蘭や桃子もそうですね。

今はSNSなど外と繋がれるツールはあるけれど、能動的に自分で発信する行為は10代だと難しいでしょう。というのも、家で起きている問題は「恥」だと思っていますから。誰かに知られたら、親を傷つけてしまう。絶対に話しちゃいけないと。

川上 「普通」でいたいわけですから、同情されることへの怖さもある。

信田 家にいられない、誰にも話せない、と追い詰められた子どもたちが、たとえば〈トー横〉(東京・歌舞伎町の新宿東宝ビル横の広場)に行ったりするわけです。あそこには仲間がいると。

川上 トー横に行けばとりあえず笑うことができる。それがどんなものでも、「楽しさ」は必要だから。家を出るのは、保護されなければならない子どもたちの必死さゆえでもあります。

信田 虐待についていえば、児童相談所に自分で駆け込む小学生が増えているとか。

川上 それはなぜでしょうか?

信田 パンフレットなどがあり、学校でもそれを使って教えているようです。児相の存在が広く知られたことで、自分で駆け込むことができるようになってきた。これって、すごい進歩です。

川上 子どもにも親を告発する権利がある。そういうことを知るだけでも違いますね。

『黄色い家』定価2090円(税込) 中央公論新社刊
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2020年春、伊藤花はニュース記事に吉川黄美子の名前を見つけ、20年前のあの日々を思い出す。中学生だった花は、スナックで働く母親と古く小さな文化住宅で暮らしていた。15歳の夏、母の友人である黄美子と出会う。高校卒業を前に、貯めたバイト代を母の元恋人に盗られた花は家を飛び出し、「黄色い家」で黄美子、加藤蘭、玉森桃子と暮らしはじめた。少女たちは生きるため、いつしか犯罪に手を染めていくが、歪んだ共同生活はある事件をきっかけに瓦解へ向かい……