「吐き出せば心の整理になるし、読み返すと、過去の自分を思い出して愛おしくなったりもする」(増田さん)

ネガティブなときこそスポーツを

松岡 ただ……なぜ同じことを家ではできないんですかね。応援したい気持ちはあるのに、自分の感情が優先してしまう。奥さんが話している途中、僕が遮って先に結論を出したりするので、あとで娘たちから呼び出されます。「お父さん、いいとか悪いとか言ってほしいわけじゃないの。女性が求めているのは共感なんだから」って。(笑)

増田 娘さんたち、わかってる! でも不思議ですね、外に出れば選手たちにあんなに共感できる人なのに。

松岡 自分の弱さを受け入れることも大事なので、ネガティブな感情が生まれたら、朝起きたときにノートに書くようにしています。ネガティブな思いって、心に置いておくと悪いほうへと増幅するのに、文字は第三者的に捉えられるせいか、読み返すと大したことじゃない。(笑)

増田 私も若いときからノートに気持ちを書くことを大切にしていましたね。吐き出せば心の整理になるし、読み返すと、過去の自分を思い出して愛おしくなったりもする。書くことは、引退後のスポーツライターとしての仕事にも繋がりました。

松岡 「心身」と言う言葉がありますが、解剖学者の養老孟司先生がおっしゃるには、心より先に動くのが身体なんだそうです。身体を動かすと心も動く。つまり、心をいきいきとさせるのにスポーツは欠かせない。

増田 それはいいことを聞きました。心がストップしそうなときこそ、どんどん身体を動かしたほうがいいのですね。

松岡 人生100年時代、健康を保つために身体を動かしましょう、といくら言っても、楽しくなければ習慣づけて継続することはできない。でもこの「楽しさ」をどう捉えるかが大事。僕の父が毎日散歩し、椅子を使ってスクワットするようになったのは、自分と闘っている感覚を楽しいと思えたからなんです。

増田 そのためにも、仲間たちと習慣づけるのもいいかもしれませんね。朝、一緒にラジオ体操や太極拳をして、おしゃべりしながら帰ってくるとか。それと、できれば自分が輝ける本番の場を作ってほしい。

先日、友人がはじめてマラソン大会に出たら、沿道の人たちからシャワーのように声援を受けて本当に嬉しかったんですって。日ごろ、誰かから応援されることって少ないので、家庭や職場で味わえない感覚だと言っていました。

松岡 緊張感ですね。母は宝塚にいたこともあって、以前はダンスの発表会みたいなものに出ていたのですが、人前で練習の成果を見せるという意味で、その緊張感はアスリートと同じ。継続に必要だと思いましたね。