「3月になったら、しだれ桜を観に行こう。いつもひとりで行っていたけれど、今年は君と行きたい。こんな再会は滅多にないことだし、君のような存在は今後現れることはないだろう。神様が僕らにチャンスを与えてくれたのではないだろうか。

僕は君に残りの人生をかけるよ。お互い、残された人生があと何年あるかはわからない。だからこそ、穏やかな日々をともに過ごしていきたいと思っているんだ。一緒に暮らしながら、70代だからこその楽しみをともに味わっていこう」

まさか、プロポーズを受けるなんて!

こんなにも情熱的な言葉を投げかけられたことがなかった私は、感動で震えてしまいました。そこまで言ってくれるのならば、私も彼にかけてみようか。

けれど、こんなにも嬉しく、奇跡のような出来事が起こったのに、どうしても即答できなかったのです。家族、家、財産、健康面、そして世間体など、70年あまりの長い人生を歩んできた私たちが背負っているものは多すぎます。

「とても嬉しい。私もこんなに価値観の合う人と出会えるとは思わなかった。でも、結婚となるとあなたの負担になってしまうかもしれないし、私にはハードルが高いかも」と、伝えずにはいられませんでした。

でも、本当は素直に自分の気持ちだけを考えて、彼の胸に飛び込みたい。その気持ちを抑え込むのに必死でした。その言葉を聞いて、「負担なんて思わないで。いつ来てもいいように準備しているから」と、彼はまた優しい言葉をくれるのです。

退院後、コロナ禍や互いの家族の事情で会える回数は少ないけれど、毎回1時間にも及ぶ電話での頻繁なやりとりは続いています。

今でも、この人と結婚できたら幸せになれるに違いないと確信できるものの、子どもたちや友人に相談するのは憚られる。ずるずると悩みながらも、彼の存在が私には欠かせないものなのです。

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