この世の地獄と極楽を描く、阿木燿子の詞
阿木 これまで、夫婦二人三脚で数多の楽曲を作ってきたけど、クリエイターとしてのあなたは私とは真逆のタイプよね。あなたは宇崎竜童として表に出る人だし、私は裏方の方が性に合ってる。作曲家としてのあなたは普通の生い立ちなのに、なぜこんな引きずったメロディー、陰影のあるメロディーを書くんだろうって。作品と本人のギャップが大きい。いい意味でどこか深いところに闇があるんでしょうね。声を含め、日本的な情念みたいなものが感じられるし。決して計算しているわけではなく、あなたにしか書けないメロディー、あなたにしか歌えない歌がある。言ってみたら《宇崎竜童節》ね。それは作詞家の私にとって、魅力的な部分なの。
宇崎 それ、そのままお返ししたい言葉です。(笑)
阿木 私は『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』に始まって、まったくのフィクションの世界を描くのが得意だけど、あなたは歌手としては生身をさらけ出さざるを得ない。ステージ上のあなたはパワフルなので、未知数の部分がまだまだ残っているのではと思っているんだけど?(笑)
宇崎 フィクションとはいえ、あなたの詞は毎回「こんな言葉、いったいどこから出てくるんだ!?」と感心していて。今の若いシンガーソングライターって、自分の経験やその時の感情をストレートに歌にしたりしているけど、あなたは全然違うんだもの。「これ、男にしか書けないんじゃないか?」というような詞も書くよね。それがどこから来るのか、あなた自身も知らないんじゃない? この世の地獄と極楽を描いている。経験からきている場合もたまにあるけど、ほとんどは空想の世界だよね。
阿木 そうね。
宇崎 あなたの詞は目を通した瞬間に、僕の頭の中にメロディーが浮き出てくるんだ。だから僕は、その浮き上がってくる音符に従ってメロディーをつければいい。