完成されたファンタジー

山本 へぇ。どんなところですか?

トミヤマ 王道のシンデレラ・ストーリーはいまだに人気なんですよ。受け身の女子が選ばれ、愛され、幸せになる話で、フェミニズム的にツッコミたくなる要素もあるにはあるんですが(笑)、シンデレラ・ストーリーはやはり完成されたファンタジーであり、一種の伝統芸能ですからね。やっぱり強いですよ。

つまり女性向けマンガの世界は、すごくリアルな作品と、ファンタジー全開の作品の両方があって、両者が絶妙なバランスを保ちながら発展しているんですね。男性向けのマンガだと、そのバランスがまたちょっと違うのかな。

山本 バランスとは?

トミヤマ とあるマンガの講座を開いたとき、男性の参加者から「男性向けのマンガには、どんどんパワーアップする島耕作のようなキャラクターばかり出てくるけど、僕は現実の自分に近い人の話も読みたい。女性向けのマンガにはそういう作品がたくさんあってうらやましい」と言われたんです。

『女子マンガに答えがある――「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(著:トミヤマ ユキコ/中央公論新社)

山本 弱いまま生きていく男性の姿があまり提示されていないんですね。それは確かに可哀想かもしれない。弱い主人公がどんどん強くなっていく物語ばかりだと、「自分も強くならないといけない」というプレッシャーを無意識に感じてしまいそうです。

トミヤマ そうなんですよね。上昇志向を否定するわけではありませんが、地味だったり弱かったりするキャラクターがバリエーション豊かに描かれることで、救われる読者もきっといるはず。女子マンガだと、そういうキャラをいくつも思いつくんですけどね。

彼女たちを負け組みたいに感じる人もいるのかもしれないですけど、「でもこういう部分はすごく豊かだよね」というオルタナティブな見方を提示してくれていると感じます。