「有言実行」の市川らしいスピーチ
冒頭の二文は、まさに市川房枝にしか口にできないことだろう。1000人の会場は静まり返った。ところが、その後、思いもよらないことが起こる。政府が設置した「婦人問題企画推進本部」は男性ばかりで希望が持てない、という段で会場から大きな拍手が沸き起こったのである。
これには市川自身が驚いた。両陛下ご退場のあと、壇の下に降りたら、再び出席者から「よかった、よかった」と声をかけられた。「私としてはいうべきことを、それも控え目にいったまでだが、形式的な月並みのあいさつや祝辞とはかわり真実をいったせいであろうか」と市川は語る(『婦人展望』1975年12月)。
婦人問題企画推進本部とは、総理大臣以下大臣が務めるもので、当時の三木武夫首相以下、大臣は全員男性だったため、「男性ばかり」というチクリとした一言になったわけだ。
慣例としては、両陛下が臨席する会合は、総理や大臣に続いて衆参両院の議長が祝辞を述べる。しかし外国人女性2人から祝辞をもらうことになっており、日本人女性も壇上にのせたいと、市川に白羽の矢が立ったのである。
引き受けるにあたっては「月並みなことをいうのはいやだから、私の考えをのべます」と伝えたという。両陛下を迎えても、総理大臣の前でも、「有言実行」の市川であった。
付言すると、市川が「男性ばかり」と述べた「婦人問題企画推進本部」は、1994年に「男女共同参画推進本部」と看板をかえた。
本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官、男女共同参画担当大臣、国務大臣を本部員とするため、女性閣僚が増えない限り女性比率はあがらない。本部員は、女性ゼロから2人程度に増えたのみ、それが市川没後から今日に至るまでの変化である。