性的なシーンに限らず、そもそも日本には、諸外国のように俳優の権利や尊厳を守る労働団体がない。俳優は、傍から見る以上に大きなプレッシャーを抱えながら日々演技をしています。

同様に、スタッフにも明確な労働規制がありません。現場は拘束時間が長く、驚くほど低賃金だったりするのに、「いい作品を作る」を旗印に労働が搾取されていることが多い。

日本にインティマシー・コーディネーターが導入されれば、俳優だけでなく、いろいろな立場の人の労働環境を改善する役に立てるかもしれない、と思いました。

講習は50時間を超えるもので、勉強は本当に大変でしたね。セクシャリティやハラスメントに関する座学はもちろん、同意を得ることの大切さ、前貼りなど性器を保護する道具の付け方、性行為シーンの撮影を安全に進めながら、かつリアルに見せるための体の動かし方まで、学びの範囲は多岐にわたります。人の尊厳を守る、意味のある仕事になると確信しました。

ただ、この仕事がいまの日本で受け入れられるだろうかという不安は、資格取得を決めたときから常にありました。日本の映像業界は、監督が脚本をもとに俳優と話をしながら演技や振り付けを指導する現場がほとんど。

互いの信頼関係で成り立っていた世界に第三者として介入し、細かく同意を取りながらその内容を文書にもするわけで、最初のうちは邪魔者扱いされるだろう、という覚悟はある程度できていました。