脳波で調べたところ
では「見る」ことをどうやって調べる(=測る)のか。発達心理学者はよく脳の反応を用いる。脳の情報処理は、電気信号の伝達で行われる。外界から視覚情報や聴覚情報が入ってきた瞬間から、脳の情報処理のタイムラインに沿って、脳のさまざまな部位での電気信号が変化する。
この変化を測定することが可能である。しかもこの脳の反応(脳波)は、赤ちゃんが指示に従って対象を見たり、手を伸ばして取ったりという特別な行動を取る必要がなく、情報処理に負荷がかからない状態で赤ちゃんの認識を調べることができるという利点がある。
もう一つ、脳波を使ったこれまでの研究でおもしろいことがわかっている。1歳を過ぎた赤ちゃんに、知っている単語を聞かせ、モノを見せたとき、モノが単語と合っているときと、合っていないときで、違う脳波のパターンが見られるのだ。
たとえば「イヌ」という音なのに、絵はネコの絵だとする。すると、「イヌ」という音と同時にイヌの絵が見せられたときに比べ、音の始まりから0・5秒くらいたったところ(400ミリ〜600ミリ秒)で、脳の左右半球の真ん中付近、正中線上に沿った部分の電位が下がる。
これは、大人でも単語と指示対象が不整合だったり、文脈に合わなかったりしたときに見られる反応で、一般的にN400と言われる。Nはネガティヴ(陰性の電位変化)、400は400ミリ秒を指す。
つまり、赤ちゃんが音声を「ことば」と認識し、ビジュアル刺激(絵)をそのことばが指し示す対象としては「おかしい」と判断するときに見られる反応である。これを踏まえて筆者らは、生後11か月の赤ちゃんを対象に、脳波を認識の指標とした実験を行った。