音に合うモノは何かを理解している

この結果はおもしろい可能性を示唆している。まだほとんどことばを知らない11か月の赤ちゃんは、人が発する音声が何かを指し示すものであることをうっすらと知っているのだ。

しかも、「音の感覚に合う」モノが、単語が指し示す対象かどうかを識別している。だから単語の音声が、音の感覚に合わないモノと対応づけられると違和感を覚えるのだ。

対象とことばの音が合うと、脳の左半球の言語の音処理を担う部位も活動するが、それより強く右半球の環境音を処理する部位(上側頭溝)が活動するのである。

実は言語学習をまだ本格的に始めていない赤ちゃんも、ことばの音と対象が合うと右半球の側頭葉が強く活動することがわかった。

脳が、音と対象の対応づけを生まれつきごく自然に行う。これが、ことばの音が身体に接地する最初の一歩を踏み出すきっかけになるのではないか。

 

※本稿は、『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)の一部を再編集したものです。


言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(著:今井むつみ、秋田喜美/中公新書)

日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。