天野純希さん(左・撮影◎帆刈一哉)、今村翔吾さん(右)
2023年2月に木曽義仲を主人公とした歴史小説『猛き朝日』(中央公論新社)を刊行した天野純希さんと、3月に平知盛を主人公にした『茜唄(上・下)』(角川春樹事務所)を刊行した今村翔吾さん。小説家仲間である2人は奇しくも同時期に、同じ鎌倉時代を題材にした小説を上梓しました。どちらも歴史上の勝者である「鎌倉殿」のお話ではなく、敗者から見た物語を。
大河ドラマで大きな話題を呼んだこの時代。「鎌倉殿」に敗れた人物たちは、どのような生涯を送ったのでしょうか? 誰よりも早く平家に勝利した木曽義仲は、なぜ天下を取れなかったのか。平清盛亡き後の平家が、源氏に勝つ術はあったのか。『鎌倉殿の13人』では描かれなかった歴史の謎に、人気小説家が迫ります。
この記事は4月25日(火)にジュンク堂書店池袋本店で行われたオンラインイベント「『猛き朝日』『茜唄(上・下)』刊行記念~歴史小説家2人が語る、鎌倉時代の謎~」の内容を対談記事として構成したものです。

鎌倉時代の小説は編集者に嫌がられる?

天野 僕はデビューして以来、ずっと鎌倉時代、とりわけ木曽義仲という人物を書きたいと思っていました。学校の古典の授業で習った『平家物語』の「木曽最期」の強烈なイメージが頭に残っていて。でも、今まで編集者からGOサインが出なかった。鎌倉時代って編集者に嫌がられませんか?

今村 嫌がられます(笑)。戦国や幕末に比べて人気のない時代なので、本が売れない。

天野 今回は大河ドラマの『鎌倉殿の13人』が発表されたタイミングに合わせて提案したことで、ようやく編集者を説得することができました。

今村 僕も平知盛という人物をずっと書きたいと思っていました。『茜唄』の企画段階では大河ドラマの情報は公開されていなかったので、やっぱり苦戦しました。編集者を説得するために「できるだけ分かりやすくするから!」と言い続けました。

天野 平家の人物を主人公にすると、名前がややこしくて大変ですよね。登場人物がほとんど「平なんとか盛」。

今村 できる限り「新中納言」とか「主馬」とか、官名やあだ名で書くようにしました。そもそもこの時代の人物って知名度があんまりないですよね。有名なのは源義経ぐらいで。

天野 戦国とか幕末だとイメージが固まっている人物も多いですからね。鎌倉時代だと源頼朝、平清盛ですら、知られているか怪しい。

天野さんの執筆の際の史料(写真提供◎天野さん)

今村 テレビでよくある、街頭での有名人の認知度調査があるじゃないですか。あれ、歴史上の人物でやってほしくて。義経や頼朝でも、半分ぐらいの人しかわからないんじゃないかな。岸田総理でも80%いってなかったですから。

天野 それは無理だ。木曽義仲なんて絶望的だよ。