遺伝子の偏り

ところで、最近の日本のビッグレースでは栗毛(栃栗毛を含む)の馬をあまり見かけなくなったな、と思った方もいるのではないでしょうか。

2022年の皐月賞は、出走馬18頭中、唯一の栗毛馬であったジオグリフが勝ちました。

『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』(著:堀田茂/星海社)

鹿毛遺伝子Eをホモで(ダブルで)持つディープインパクトやロードカナロアのような種牡馬からは栗毛産駒はまったく出ないこともあり鹿毛系全盛ですが、栗色に光ったジオグリフが17頭を引き連れてゴールする姿はやはり映えましたね。

『サラブレッドに「心」はあるか』(楠瀬良 中公新書ラクレ)には、「日本競馬の歴史を変えたといわれるサンデーサイレンス。その息子で種牡馬として大活躍したマンハッタンカフェは外見がうりふたつでした。ともに青鹿毛で流星鼻梁鼻白。これだけ似ている場合は、親子関係の判定はDNA検査を待つまでもないような気もします」とありました。

確かに外見はそうなのですが、サンデーサイレンスの産駒にはアグネスタキオンのように栗毛馬もいることから、遺伝子型はEeであると断定できる一方で、マンハッタンカフェの産駒には栗毛が一切いないことから遺伝子型はEEと推定され、このように目に見えない遺伝子レベルでは確かな違いがあるのです。

サンデーサイレンスのような遺伝子型Eeの種牡馬が栗毛の牝馬と交配すると、その仔が栗毛である確率は50%です(メンデルの「分離の法則」)。

しかし、ディープインパクトやロードカナロアのような遺伝子型EEの種牡馬と栗毛牝馬を交配しても、その仔に栗毛はまったく現れず、まさしくその例がジェンティルドンナでありアーモンドアイです。