近親交配が高頻度に行われている

2018年、競走馬理化学研究所の研究者諸氏が、「Evaluation of recent changes in genetic variability in Japanese thoroughbred population based on a short tandem repeat parentage panel」と題した論文*1を発表しました。

その内容は、日本の生産界は配合模索において特定の競走能力ばかりを追求し、その結果、特定の人気種牡馬ばかりがもてはやされることによって、特定の遺伝子に関してヘテロ接合が減少しているとのことです。

つまり、ヘテロ接合が減少しているとはホモ接合が増加しているということであり、これによって遺伝的多様性低下が惹き起こされつつあるようで、これはまさしく近親交配が高頻度に行われてきていることを示唆しています。

この論文は「日本の生産界が持つべき配合に対する考え方」にまでは言及していませんが、現在の生産界に対して警鐘を鳴らしていることに間違いありません。

けれどもその一方で、生産界がこのような論文が指摘している内容を「警鐘」であると理解できているかは甚だ疑問です。

(*1)Kakoi, H., Kikuchi, M., Tozaki, T., Hirota, K., Nagata, S. (2019) Evaluation of recent changes in genetic variability in Japanese thoroughbred population based on a short tandem repeat parentage panel. Anim Sci J. 90, 151-157. doi:10.1111/asj.13143

※本稿は、『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』(星海社)の一部を再編集したものです。


競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』(著:堀田茂/星海社)

本書は、生物学・遺伝学的観点から説明する競走馬の血統入門書です。「遺伝子」や「ミトコンドリア」「メンデルの法則」といった中学校の理科の授業で習った基礎から最新の研究論文まで、一緒に血統と遺伝を学びましょう。