母は存在だけでほっとする人
男の嫉妬は恐ろしいのですが、結局繙いて行ったら、名誉欲だったり金だったり、理由がなんだか必ずわかるもの。怖い人にはたくさん会ってきて、中には感心するくらい悪い奴もいましたが、怖いことはない。でもお化けとか霊とか人知を超えた存在って、理由すらわからないものなので、僕はいまだに一番怖いんです。(笑)
僕は長い間、大阪の理髪店で、決まったおっちゃんに髪を切ってもらっているんですけど、ある時言いにくそうに「大崎さんのこと〈見たい〉人がいるんですよ」って言ってきたことがあって。もともと見えない物が怖い性分なので、「そういうのはええわ」って断ったんです。でもまた髪切りに行ったら、どうにもこうにも言いたそうにしていたので話を聞いてしまいました。その「見える人」によると、「大崎さんには6人くらいの女の人が憑いていて守っている、こんなにたくさん守護霊がいる人は見たことがない」という話でした。
全部で6人…思い当たる面々はいないんですけど、亡くなった母が「洋はおっちょこちょいやから」と親戚にでも頼んで大勢女の人集めてくれたのかな?と思いました。結局信じてしまっている自分がいますね。
この本を出すにあたって、やはり自分にとって母親の存在は大きいなと改めて思いました。信仰心の厚い国に生まれたら、キルケゴールじゃないですけど、「すべては神に回帰する」と考えたのかもしれませんが、私にとってそれは母です。たとえこの世にいなくても、生まれた時は必ずそばにいるのが母親。誰にとってもその存在は大きい。僕にとって母は、心底ホッとできる存在、頼りになる人なんです。
僕の母は、とにかく我慢強い人。母はいつか自分の幼稚園を持ちたいと思って勉強しながら、家事もこなし幼稚園教諭とピアノ講師をしていました。ところが夢も半ばで子宮がんを患ってしまい、再発の恐怖と闘いながら、認知症になった義理の両親の介護をしなければいけなくなってしまいます。一方の僕は成績も悪く、学校の先生からは「大崎くんには一つもいいところがない」と言われて母を泣かせるような息子でした。
吉本に入った後も忙しさにかまけて食事すら連れていかなかった僕に対して、母はいつも「大丈夫や、はよう仕事行き」と言うのです。マザコンだったくせに親孝行できなかった僕ですが、母の我慢強さは僕の中で何かしら生きているのかもしれません。本に書いた数々の試練は、そんな我慢強かった母の存在が心の中心にあったことで乗り越えることができました。