成田悠輔さんに「あれだけはあかんから謝れ」

忙しかった母に代わって僕の面倒をみてくれたのは、髪結だったおばあちゃんです。「美味いもんは宵に食え、言いたいことは明日言え」とか「老いては子に従え」そんなことをしょっ中言ってました。若い頃は、思い返すこともなかったけれど、今になると痛いほど分かる。

だからってこともないんですけど、テレビに引っ張りだこの論客、経済学者で起業家の成田悠輔さん(1985年生まれ、イエール大学助教)の「年寄りは集団自決せよ」っていう発言は、許せなかったですね。「その一言だけは謝れ」ってどうしても言いたくて、つてをたよって対談を申し込みました。年寄りを傷つけるつもりじゃない彼一流の皮肉っていうのはわかった上で、僕の出会ってきた人たちの功績を考えると一言言わずにはいられなかった。年を取ることも悪くない、自分より若い人に勇気を与えることもできるという意味で、じいちゃんばあちゃんの存在っているんだよっていうのを、僕からは若い人たちに言いたいです。

僕が社長をしていた時に、創業者一族相手に訴えを起こさないといけない事態になって、取締役会で相談をしたんです。あまりにシビアな状況で誰も何も言い出さず、水を打ったように会議室が静まりかえっていました。そんな中、今まで取締役会でほとんど喋ることがなかった年輩の社外取締役がたった一言、「大崎さん、それは訴えなあかんわ」とおっしゃったんです。僕は「そうですか、わかりました」と答えて、決断に至りました。大きかったです、彼の一言は。今もお元気でいらっしゃる大成建設の平島治さんという方で、私より20かそこら年上だったので、当時は70代後半。平島さんの経験の重みが私の背中を押してくれたんです。

 

ほとんど喋ることがなかった年輩の社外取締役の一言が私の背中を押してくれた(撮影:米田育広)