『ビリギャル』著者・坪田信貴くんがきっかけに
本を出すきっかけになったのは、数年前に流行った「クラブハウス」というアプリを通して、公私ともに仲良くしている教育者の坪田信貴君と、サンマーク出版の黒川精一さんとお話をしたこと。坪田さんはあの『(学年)ビリ(の)ギャル(が1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話)』の著者で、『居場所。』には詳しく書きましたけど、大人になってからできた僕の親友。塾の経営者にして、起業家でもあるちょっとした変わり者の男です。
一方の黒川さんも出版業界では名の知れたやり手で、この出版不況の中、ベストセラーを連発しています。クラブハウスが終わった後に、坪田君が「どうです?黒川さん、大崎さんこんな人なんですけど本出しませんか?」と言い出しました。それに、黒川さんもノッてくれて。しかし、いざ本を出すにしても僕は何を書いていいか分からないので、おっさん3人で金沢や唐津へ旅行に行き、2人に自分の話をたくさんさせてもらいました。父や母のこと、息子たちのこと、吉本のこと…。
僕としてはただの旅行のつもりでしたが、どうやらそれが取材だった。おっさん同士喋った60時間は、文字数にしたらとんでもない量です。それを黒川さんは何十回と再生し、大崎がのりうつったんじゃないかというところまで聞いてくれて、本の体裁に整えてくれました。まずはその情熱に圧倒されたし、一旦は僕もそのまま出すのでいいかと思ったのですが、なんせ息子のことや松本人志くんのことも書いてある。やはり一字一句自分がしっくりくるところまで一緒に作らせてもらおうと決意しました。
僕が直せば直すほど素人の文章になっていくとは思いましたが、それでも父と息子のニュアンス、大阪のニュアンスなんかは僕にしかわからないから、どうしても粘ります。「ここはひらがなの方がいい」とか「ルビをとってほしい」、「他の言い方は何かないか?」などと注文したり、相談したりのやりとりを延々としました。普通の出版社だったら「もうここが締切なんで」って打ち切られたと思うのですが、黒川さんは実に執念深く、2年間付き合ってくれたんです。やっぱりすごい編集者だと思いましたね。
帯は松本人志くんにお願いしました。はい、あの「一気に8回読んだ」です。帯のお願いをする頃、ちょうど松本くんには3つほど頼みたいことがありました。「これこれはどうですか?」「やめときます」「これはどうする?」「それはやらないです」というやりとりをして、「最後は俺の件でお願いなんやけど」と言って本のことを伝えると、「あ、それはやります」と。で、ゲラを渡したんですよ。本になる前ですから横広がりのコピー用紙がクリップで留めてあるものです。松本人志くんには「読みにくいですよね、こういうの」とかブツブツ言われましたけど、「そんなん言わんと」と言って渡しました。で、すぐにできてきた言葉があれでした。――付き合い長いからわかるんですよね。まだ読んでないやろ!って。(笑)