撮影:本社写真部

 

年の離れた人との交流が少なかったという作家の柴崎友香さん。新著『待ち遠しい』は、さまざまな世代の女性たちが対話するストーリーだ。(構成=阿古真理 撮影=本社写真部)

同じ時代を生きる女性たちが抱える
リアルな感情を描きたい

若い頃、私は同世代の人としか話す機会がありませんでした。もっといろいろな年代の人と接しておけば良かったなと、今は思います。かみあわないこともありますが、それも面白い。本作ではそんな年の離れた女性たちの対話をテーマに書きました。39歳会社員の春子、主婦歴が長く夫を亡くして間もない63歳の大家のゆかり、ゆかりの甥の妻で25歳の沙希が、大阪郊外の町で近所付き合いを始めます。3人は暮らしてきた環境や価値観がまったく違う。ゆかりは東京から引っ越してきたばかりなのに、さっそくご近所ネットワークを作り、春子や沙希にも手料理をごちそうします。この年代の女性は、私の周りでもバイタリティ溢れる人が多いなと感じます。

春子は私自身にいちばん年が近い。思うような就職はできなかったけれど、自分が好きなことを大切にしたいと思っています。一方、沙希は母子家庭で育ち、さまざまなことを我慢してきたため、「こうあるべき」と頑なになっている。結婚も早く、とても現実的。結婚が生活防衛である点は、実際に若い人にインタビューして感じたことでもあります。

登場する人たちは皆、何かしら「抑圧」を受けています。春子は沙希から「独りで住んでいるのは変わっている」と言われ、同様の空気がある実家にも足が遠のきがち。結婚しているかどうかは、いつまでも問題にされがちですよね。私もまだ新人のころですが夕刊紙で、「30歳でいまだ独身」と書かれたことがありました。たとえば企業も、いまだに社員が結婚することを前提に成り立っているところがある。専業主婦の妻が家事を全部引き受けるからこそ成立する長時間労働、単身赴任や転勤など。春子の勤める会社でも、彼女を含め、皆どこかで窮屈な思いをしています。

上の世代のゆかりはというと、状況はまた複雑。彼女は夫の親族から距離を取るために引っ越してきた経緯がある一方、過去には自分の娘を苦しめてしまったことも。ある関係性のもとでは抑圧を受けている人が、別のところで抑圧する側になることもあります。

それでも最近は、いろいろな人が受けてきた抑圧を言葉にできるようになってきたと感じます。少し前までは「親は自分のことを思ってくれているから、従わないと」という刷り込みに囚われたり、「仕事なんだから当たり前」「誰でもそうだから」と言われれば、自分が悪いと思ってしまうなど、会社や家族の「ふつう」が、じつは抑圧だと気がつかず、嫌だと感じること自体がいけないんじゃないかと考える人も、多かったと思います。

それが今は「その状況おかしいよ」「怒って良かったんだ」と言えるようになってきた。昔は、パワハラとかモラハラといった概念すらなかったけれど、言語化されるというのは大きいなと思います。言葉になることで問題に気がつき、自由になる第一歩にもなる。本作の登場人物たちも、それぞれ問題を抱えながら、自分の生き方をさぐっています。

小説では、同時代に生きている人たちのリアルな生活を書きたいと思っています。そうしたら、今回はさまざまな「ハラスメント」が自然と登場することになりました。嬉しいことに、とても反響が大きいんです。友人からも「私もこういうことを言われたことがある」と長いメールが届きました。小説の続きを聞いているような反応が多く、思っていた以上に皆いろいろな思いを抱いているのだと感じています。