日本の山火事

まず、日本の森林火災から見ていく。日本で新型コロナウイルスのワクチン接種がはじまったばかりの2021年2月に起こった、栃木県足利市の山火事は記憶に新しい。

全部で167ヘクタールの山林が焼失して、発生から20日余りかかって鎮火したが、その間に300世帯以上に避難勧告が出て、中学校は休校、近くの高速道路も一時通行止めになるなど、日常生活に少なからぬ被害が出た。ハイカーの火の不始末が原因の可能性は高いが、出火原因の特定は難しいだろう。

山火事は雷や噴火などの自然現象によって起こるものと、焚き火の不始末、放火など人の行為で発生するものとがある。

日本の山火事の三分の一は焚き火の不始末で、その後に野焼きなどの火入れと放火が続く。落雷などによる自然発火はほとんどなく、日本の山火事のほぼすべては人の手にかかるものである。

それでも、山火事には季節性がある。山火事が起こるのは2月〜5月が多く、なかでも4月に集中している。特に太平洋側でその傾向が強い。

この時期、春一番のような脊梁(せきりょう)山脈を越えてやって来る北風はフェーン現象を起こす乾いた風で、連日乾燥注意報が出る。それに加えて、春は枯れ草が多くなるので、山はいっそう燃えやすくなっている。つまり、日本では乾燥が山火事に大きな影響を与えている。

『森林に何が起きているのか――気候変動が招く崩壊の連鎖』(著:吉川 賢/中公新書)